日本鉄リサイクル工業会の木谷謙介会長(シマブンコーポレーション社長)は先月13日、東京・お台場で開催した第51回通常総会で再任され、会長として3期目を迎えた。2022年6月の就任以降、鉄スクラップ業を取り巻く環境は大きく変化している。特に金属スクラップヤード業に許可制を導入する改正廃棄物処理法が先月12日に成立。翌日の全国大会(関東支部主管)で木谷会長は会員に法令順守の再徹底を呼び掛けた。きょう7月1日の「鉄スクラップの日」に当たり、4年間の活動を振り返るとともに今後の取り組みを聞いた。 (小堀 智矢)
――会長に就任した22年当時から、業界を取り巻く環境は大きく変わった。
「会長に就任した22年6月は、20年10月に菅義偉首相(当時)がカーボンニュートラル(CN)を宣言してから約1年半後。21年2月には日本鉄鋼連盟が2050年CNの基本方針を発表しており、日本の鉄鋼業界として政府の方針に賛同し、CNに貢献する方向性が明確になっていた頃だった」
「こうしたタイミングでの会長就任に当たり、今後の鉄スクラップ業界を取り巻く環境認識として三つの変化を指摘した。(1)鉄スクラップが重要な鉄源であることが約50年ぶりに再認識される(2)鉄鋼メーカーの電炉シフトで再び鉄スクラップが国内で大量に必要とされる(3)鉄スクラップの〝地産地消〟によって会員各社が業に対する誇りや自負を取り戻すことになる―という3点だ」
「4年が経過して、業界環境は予想以上に大きく変化した。政府は今や循環経済を国家戦略と位置付け、今年4月に開催された関係閣僚会議では、再生金属資源について2030年までの再生材供給目標を盛り込んだ『メタルリサイクル推進戦略』が策定された。レアメタルだけでなく、鉄やアルミ、銅のベースメタルも循環経済に資する非常に重要な資源と位置付けられ、国内循環促進が政策となった。当工業会の主張と同様に、政府側からも鉄スクラップの重要性が主張されるとは想定していなかった。また、高炉メーカーの電炉化も本格的に進められており、高炉メーカーのトップから鉄スクラップに関する発言が出るようになったことも画期的な変化だ」
――4年間の活動の成果としては。
「4年前の会長就任時、当工業会の役割を次のように会員にお伝えした。業界内外で刻々と変化する課題を的確に把握し、関係各社と認識を共有し、課題解決に向けた取り組みを行うことと、行政や関連団体と議論・協議を重ね、業界が生き残り、発展しやすい環境を整備すること、つまり側面からの支援あるいは下支えすることだ。この役割に基づき、四つの取り組みの方向性を(1)全国7支部9委員会(現在は適正ヤード推進委員会を含む)を通じた会員企業の現状および課題の把握、(2)把握した課題の解決に向けた方策の検討・実施、対外的な活動として(3)鉄スクラップの一層の循環促進に向けた行政や関連団体との議論・協議、(4)鉄リサイクル業界の社会的認知度の向上と定めた。この4年間で取り組んだことは大きく四つ挙げられる。一つ目が不適正ヤード問題への対応。二つ目がCPsの活動への参画。三つ目が鉄スクラップの環境価値CO2マイナス1・28トン(当初は1・39トン)のPR。四つ目が海外関連団体との国際交流だ」
――一つ目の不適正ヤード問題への対応について。
「当工業会は23年5月に特別委員会として『適正ヤード推進委員会』を設置し、経産省や環境省に加え、警察庁にもオブザーバーとして参加していただいた。太陽光発電施設の銅線ケーブルなどの金属盗難が多発していたこともあり、警察庁には我々の想定以上に積極的に連携いただいた。行政側の課題認識とも呼応した結果、協議や議論が迅速に進み、結果として金属盗対策法と改正廃掃法という2本の法律に当工業会が関わることになった。不適正ヤードの直接的な対策として、この4年間での大きな成果と捉えている」
「適正ヤード推進委員会は23年8月に第1回を開催、その後、合計9回開催した。全国各地の状況を官民で共有し、当工業会の考え方や要望を経産省、環境省、警察庁に伝えていった。警察庁の金属盗対策法は昨年6月13日に成立し、今年の全国大会でちょうど1周年だった。対象は当面は銅だが、鉄スクラップヤードにも銅は入ってくるので、しっかりと対応したい。同法は昨年9月の一部施行に続き、今年6月から全面施行となった。当業界にとっても勇気付けられる法律だ。併せて、警察庁からは相談専用ダイヤル『♯9110』の活用も提案していただいた」
――先月12日には国会で改正廃掃法が成立した。
「環境省による廃掃法の改正に関しては、同省の検討会に当工業会がオブザーバー参加し、個別の意見交換会も実施するなど情報収集してきた。ただ、我々の理解不足、確認不足、意思疎通不足もあって、環境省と我々の理解に違いがあることが昨年末に表面化。経産省、環境省とは年明け以降、2カ月間ほど緊密に意見交換を行うことになった。当工業会の考えをしっかり伝えるとともに、法改正による鉄鋼業界への影響を十分考慮していただくよう要請した」
――環境省、経産省、鉄リサイクル工業会の三者で整理・確認した具体的な内容は。
「改正法案に関しては五つのポイントを反映いただいた。まず1点目が『規制対象物品として鉄スクラップに〝有害〟という呼称を用いない』という点だ。結果的に有害という文言は削除され、『要適正』という表記になった。2点目は『不適正ヤードを全国レベルで撲滅するため、鉄・非鉄・プラスチックを問わずヤードの全てを規制対象とする』こと。当初、当工業会はこれに反対していた。しかし、不適正ヤードを取り締まる実行部隊は都道府県などの自治体となる。各自治体の担当者が適正なヤードか否かを判断するのは難しく、いったん全てのヤードに網をかけない限り、実行性のある規制ができないという環境省の説明に納得し、全面的な規制を受け入れた。同時に、資源循環が国家的な重要事項になり、不適正ヤードの撲滅が国家的な関心事になっているとも感じた」
「3点目が『規制のレベルは必要最低限のナショナルミニマムとする』こと、4点目は『法改正後、詳細制度設計の検討の場に工業会が委員として参加する』こと。最後5点目が『規制導入によって適正な業者に過度な負担が生じないよう配慮してもらう』こと」
――取り組みの二つ目である、CPsの活動について。
「CPsは23年12月に始動し、全部で13回の会合が開かれた。当工業会は鉄鋼WGに参加している。具体的な活動として、高炉メーカー各社の革新大型電炉が順次稼働することに伴う高品位鉄スクラップの不足について、その回避の方策として、高品位鉄スクラップを創出するシュレッダーの活用や精緻解体などが検討されている。今年度環境省予算での委託事業が決定している」
――会長として3期目を迎えた。今期2年間で取り組むことは。
「冒頭に申し上げた四つの方向性は変更せずに、これらに基づき引き続き堅実に活動を進めていく。ただし、活動の重点は少しシフトする」
「まずは、対外的な取り組みとして、改正廃棄物処理法(廃掃法)のフォローが大きなテーマになる。改正法は6月12日に成立、19日に公布され、今後は政令や省令、細則等といった制度運用に関わる詳細について、環境省が設置する検討会で詰めが行われる。当工業会は、そうした検討会の場に参加し、厳しすぎる基準などが設けられないよう積極的に意見発信する。当工業会は環境省の検討会に委員として参加するほか、その委員をサポートする体制も整える。適正ヤード推進委員会を改組し、改正廃掃法に対応する組織とすることも考えている」
「また、サーキュラーエコノミー(CE)実現に向けた産官学パートナーシップ『サーキュラーパートナーズ(CPs)』の活動に対し、引き続き工業会として参画していく。CPsの鉄鋼ワーキンググループ(WG)では鉄スクラップの高品位化や利活用拡大など具体的な動きが出始めている。活動への参画を希望する会員の要望等を把握していく。これも対外的な取り組みとなる」
「三つ目の取り組みは対内・対外の両面になるが、『製品としての鉄スクラップ』の新名称を決めるとともに、新名称をしっかり普及させていく。当工業会では先月13日、東京・お台場で開催した第36回全国大会で会員からの新名称募集を正式に開始した。同時に、応募いただく新名称に求める三つの要件((1)循環経済の実現に必須の資源とわかること、(2)鉄鋼業のカーボンニュートラルに不可欠の資源とわかること、(3)発生ではなく使用の側面からみること)を提示した。この3要件を満たす名称を募集しており、特に若手には旧来の常識にとらわれないアイデアを期待している。9月以降に理事会、運営委員会で二つ~三つの案に絞り込み、商標チェックを経て、新名称は年明けに発表できれば良いと考えている。新名称が決まれば、広報委員会を中心にさまざまな形で広範に周知していく」
――行政との連携について。
「当工業会を所管する経産省との連携として、最近は金属課長と面会する機会も増えている。昨年12月と今年5月に鍋島学金属課長と意見交換会を行い、今後も定期的に行うこととなっている。高炉メーカー各社が電炉化に伴い鉄スクラップを積極的に消費する流れを見据えた動きと捉えている」
「先月13日の全国大会には各省庁から過去最多となる7人の来賓をお迎えした。中央官庁の幹部の生の声を聞くことができる場があることは、会員にとって大きなメリットではないだろうか」
――会長として会員にメッセージを。
「ぜひ、会員の皆さまには工業会活動に積極的に参加してもらいたい。当工業会は各支部や各委員会で幅広い活動を行っている。新たな活動を提案いただくことも大歓迎だ。業界が変化に乗り遅れないよう活動していくことは、会員各社のためになるし、ひいては将来世代のためにもなる。鉄鋼業の大変革期を鉄スクラップ業界として乗り越えるべく、さまざまな発信を行っていく。会員各社も変化をしっかり捉え、地域に根付いた企業として誇りを持って事業活動を行ってもらいたい」
「当工業会では各支部で若手世代の活動が活発化している。非常に良いことだと感じる。若手同士の活動から工業会の各支部や各委員会の活動に入りやすい仕組みづくりも会長としての役割だと考えている」
――三つ目の鉄スクラップの環境価値「CO2マイナス1・28トン」PRに関しては。
「鉄スクラップ1トンをリサイクルすることでCO2排出量をどのくらい削減できるかを鉄スクラップの環境価値として打ち出すことが22年11月の理事会で決定された。23年には環境委員会がCO2マイナス1・39トンという削減効果を確認。広報委員会が社会に広く周知するため、キャッチコピー『活かして、へらす』を使ったポスターやパンフレット、動画を作成。ロゴマークのピンバッジを会員に配布した。算定根拠となる日本鉄鋼連盟のLCI(ライフサイクルインベントリ)データ更新に伴い、24年12月にはCO2マイナス1・28トンに修正され、ピンバッジは新たに作成して会員に配布した」
――四つ目の海外団体との国際交流は。
「24年5月に『国際ネットワーク委員会』を発展的に解散し、国際交流の活動はいったん、本部事務局の預かり事項となっている。海外諸団体とのコンタクトは継続しているが、国際ネットワーク委員会の活動とは内容が大きく変わっている」
「従来は販路開拓を図るため、輸出先であるアジアを中心に相手国のニーズ把握や日本の鉄スクラップを知ってもらう活動が主だった。しかし、24年5月以降はコンタクトする相手国が、日本と同様に鉄スクラップ輸出国である米国やEUにシフトした。鉄スクラップが貴重な資源として再認識される状況は欧米も同様であり、鉄鋼メーカーが鉄スクラップ業者を買収するなど囲い込みの動きも聞こえてくる。そうした中で、日本と同じ鉄スクラップ輸出国である欧米の政策や規制動向といった情報の収集と共有に重点を移した。昨年は米国のリサイクル業団体、ReMA(旧ISRI)の本部を訪問し、昨秋には欧州に本部を置くBIR(国際リサイクリング協会)の大会にも参加。各団体の会長と面談した。互いに自由貿易を支持することを確認したほか、今後も相互交流していくことを取り決めた」
「鉄スクラップの日」/団体発足を記念、自ら制定
きょう7月1日は「鉄スクラップの日」。日本鉄リサイクル工業会が前身となる「社団法人日本鉄屑工業会」が発足した1975年(昭和50)7月1日を記念し、工業会が自ら制定した記念日。日本鉄屑工業会は通商産業省(当時)の許可を受けて鉄スクラップ専門業者と商社によって設立された。
91年(平成3)7月には名称を「社団法人日本鉄リサイクル工業会」に変更。2012年(平成24)4月には法人制度改革に伴い一般社団法人に移行している。
23年(令和5)からは賛助会員として鉄鋼メーカーが加入している。
今年6月末時点の正会員は686社(専業669、商社16、海外1)、登録事業所171事業所(専業135、商社36)、賛助会89社115事業所で構成される。
「製品としての鉄スクラップ」新名称/会員から募集中、8月末まで/専用QRコードより
日本鉄リサイクル工業会は、ヤード業者で選別や加工処理された「製品としての鉄スクラップ」の新名称を会員から募集している。募集期間は8月31日まで。専用のQRコードから応募フォームにアクセスできる。
鉄スクラップの新名称検討は今年度の工業会活動の一環。ヤード業者にとっての製品に新たな名称を付けることで、循環型社会に貢献している業界のイメージ向上や社会的な認知度を高める狙いがある。カーボンニュートラル(CN)やサーキュラーエコノミー(CE)の世界的な潮流に伴い、欧米の同業団体でも「スクラップ」という名称を用いなくなっていることも背景に挙げられる。
先月13日の全国大会(関東支部主管)で木谷会長が新名称に求められる3要件を明示するとともに、会員から新名称候補の募集を開始した。



