ステンレス鋼は専業の特長発揮
――現在の事業領域の展望についても聞きたい。少子高齢化の進行や人口減少、自動車電動化による国内需要の減少、アジア市場における過剰供給能力問題の長期化など、一般ステンレス鋼の市場環境は楽観視できませんが。
「一般ステンレス鋼では、2006年問題がやや遅れたものの表面化し、今や想定以上の供給過剰構造が生じている。当社は、国内向けでは圧倒的に一般ステンレス鋼が多い。お客さまの生の声をダイレクトに身近で聞く会社でなければ生き残れないと考えているし、専業として培った製造技術を駆使し、ニッチな素材にフォーカスして粘り強く提案と拡販を進めていく。お客さまの満足度を高めながら、品質、納期、アフターケアなど総合的に競争力を認知されることが当社の生きる道だと考えている」
「高機能材だけでなく一般ステンレス鋼も、リサイクル性が高く、製品寿命が長く、メンテナンスフリーに貢献する材料であり、サステナビリティの観点で見ても今後ますます社会から求められていく材料だ。厳しい競争状況はあっても、引き続き成長できる産業だと考えている。また現状は世界的にカーボンニュートラルの動きが足踏み状態にあるが、相対的に見て日本国内はCNの取り組みが着実に進んでいる。流通さんとのネットワークを生かして、的確に情報を収集していくことが重要だと考えている」
小ロット多品種、開発力にも磨き
――高機能材については。
「高機能材は海外市場が中心で、当社は特に中国市場のウエートが高い。現状は中国需要が想定以上に落ち込んでいるが、間接輸出も含めて重要な市場であることは変わらない。合弁会社を通じて協力関係にある南京鋼鉄との連携は今後も生かしていくし、製造可能範囲のさらなる拡大に向けて大単重厚板や薄手材のテスト圧延を継続している。中国ファブによる海外案件の獲得もチャンスにしていきたい」
「インドにおける需要成長も着実に捕捉したい。現地法人『Nippon Yakin India Private Limited』(ムンバイ市)は5月に設立登記済みであり、8月に開設し、現地営業体制が整った。排煙脱硫装置関連は数年続きそうで、長期的に石油化学、医療・化学や太陽光発電、水電解分野なども伸びが見込める。シンガポール現地法人を集約し、インド、アセアン、中東はインド現法がカバーする体制に転換して、中東など周辺地域における高機能材需要の捕捉と拡販強化にも力を入れる」
「高機能材の海外拡販では、ナス鋼帯、ナストーアとの物件情報共有など連携強化をこれまで以上に進めていく」
――川崎製造所は世界有数の高機能材(ニッケル含有率20%以上のフラット製品)の供給基地でもあり、ここ数年は上工程、下工程とも設備リフレッシュを進めました。
「川崎製造所は東京に近い都市型の立地で一貫生産する、世界のステンレス鋼・高ニッケル合金メーカーの中でも珍しい工場だ。大量生産を追求するなら話は別だが、小ロットでタイムリーに多様な製品を造り込む一貫工場は、当社の競争力の源泉だと考えている」
「高機能材はレパートリーと開発力を兼ね備えていることが大事だ。市場環境や需要動向が想定通りにならず、先々何がヒットするか読めなくても、多様な製品を持ち、少量ずつ生産できる体制を維持しておけば、将来のリスクヘッジにもなる。高機能材でも中国ミルの追随は激しいが、当社は多くの用途やアイテムを複眼的に捉え、小ロットでタイムリーに多様な製品を造り込みつつ、新たな用途に対して果敢に開発に挑んでいる。量産志向の中国ミルとは異なるビジネスモデルに磨きをかけていく」
「カーボンレスニッケル製錬」を推進
――フェロニッケル事業についても聞きたい。大江山製造所では「カーボンレスニッケル製錬」を目指しています。
「大江山は30年度にCO2排出原単位を13年度比7割削減する計画で、エネルギー転換、カーボン代替(ケミカルリサイクル)、リサイクル原料の多様化と使用拡大、副産物・廃棄物低減と活用の主要4施策に取り組んでいる。エネルギー転換では、ロータリーキルンの燃料を石炭からLNGに転換する設備対応が7月に完了した。カーボン代替では、還元材の無煙炭を廃プラスチックなどに置き換える取り組みを進めている」
「リサイクル原料の多様化と使用拡大では、多品種、多形状のリサイクル原料(都市鉱山)の使用拡大とそれに伴う技術開発を進めている。足元のリサイクル原料使用比率は約60%に達しており、30年度に向けてニッケル鉱石に依存しないニッケル製錬への移行を目指していく。(ニッケル鉱石調達に関わる)地政学リスクを回避することにもつながるし、エネルギー原単位や運搬費の低減、CO2削減の効果も大きい」
――現行の中期経営計画(23~25年度)は最終年度ですが、各種施策の進ちょくについては。
「総じて計画通りだ。昨年12月に導入した新冷間圧延設備は順調に稼働し、インド現地法人も立ち上げるし、水素環境での材料評価試験場も今年度末までに稼働予定だ。カーボンニュートラルに関しては、25年度に前倒しした削減目標46%(13年度対比)をすでに達成している」
「一般ステンレス鋼や高機能材を取り巻く環境が激しく変動する中で、市場・製品・生産・原料など多様な変化に柔軟に対応できるレジリエント(困難な状況に直面した際の強靭さや回復力がある)な企業を目指している。これからもさまざまな選択肢を持ちながら、時代のニーズを感度高くキャッチして、お客さまのすぐ近くで提案し続けることで、生き残る道を切り拓いていきたい」