



各種クレーンや鋼材吊上げ用リフマグ、レベラー・シャーラインなどの開発・製造・メンテナンスサービスを手掛ける鋼板剪断機械(千葉県船橋市栄町、社長・永田精一氏)は、鉄鋼・金属業界における歴史遺産の宝庫だ。
構内に入ってまず目に飛び込むのが、威風堂々とした風貌のシャーリングマシン。イギリス(スコットランド)のCRAIG&DONALD社製とある。
国内最古のシャー業である旧シーヤリング工場(現日鉄神鋼シャーリング)の東京支店として1910(明治43)年に月島で設立した「鋼板剪断」が購入し、1959(昭和34)年まで約50年間にわたり稼働した。
鋼板剪断機械は、この鋼板剪断をルーツとする。創設者の故永田慧男氏は、もともと発明好きで機械設備の知識に長け、学生時代には応用物理を学び、父・清一郎氏が経営する鋼板剪断に入社後、厚板を荷役するリフマグクレーンを開発したのを機に、鋼板剪断の機械設備事業を分離・独立。新会社「鋼板剪断機械」を立ち上げた。そのDNAを現在の精一社長、芳子会長の兄妹経営者が受け継ぎ、今年で設立65周年を迎える。
さて、この英国製シャーリングマシンは1910年に製造され、剪断能力は板厚16ミリ×8フィート幅(2438ミリ)。動力には15馬力の電動機を装備し、のちにVベルト駆動方式に改造した。その外観は、重厚ながら実に優美な風格で誇らしげ。鋳造ならではの曲線の美しさは、近代のシャープで軽量・省スペースを追求したフォルムとはまた違った趣を感じる。
すでに役割を終え、今はその余生を送るのに最もふさわしい場所で静かに佇んでいる。
なお、この設備の歴史的価値は、シャー業のみならずわが国モノづくり業にとっても逸品と評価され「日本の機械遺産」(前田清志著、オーム社出版局)でも紹介された。
ほかにも事務所の入り口には、同社が開発・使用したフライホイール付き発電装置やリフマグがモニュメントとして展示されている。また、フライホイールの回転に弾みをつけるために用いた「シーヤリング工場東京支店」の名が刻まれた分銅(自重350キログラム)も、歴史の語り部だ。
事務所の所々に飾られたパネル写真や模型などからも、かつて重厚長大産業の発展を縁の下で支えた面影を垣間見る。「歴史遺産の宝庫」たる所以である。(太田 一郎)