神戸製鋼 目次
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勝川四志彦社長
勝川四志彦社長
神戸製鋼 目次 勝川四志彦社長

 神戸製鋼所はきょう1日、創業120周年を迎える。かつての大商社、鈴木商店系の鋳鍛鋼専業メーカーとして発足した神戸製鋼は、戦前のうちに複合経営の道を切り拓き、120年の時を経て、鉄鋼アルミ、素形材、溶接、機械、エンジニアリング、建設機械、電力など多様な事業を併営するグローバルな大型複合企業として地盤を固めている。異なる事業部門間のかけ算で独自の成長戦略を描く神鋼は、どのように新たな課題に挑もうとしているのか。勝川四志彦社長へのインタビューなどを通じて、神鋼の〝今〟を探ってみる。

――神戸製鋼所は1905年に合名会社鈴木商店が、神戸・脇浜において小林清一郎氏の経営していた小林製鋼所を買収し、神戸製鋼所と改称したことが発祥です。今年は創業120周年になりますが、記念行事などは予定していますか?

 「私自身は1985年(昭60)入社で、ちょうど創業80周年の年だった。その時は社員の皆さんに記念品を配った。今回の120周年は、記念品の配布は行わないが、KOBELCOグループの社員の皆さんに『いい会社になろうよ』という意味を含めて、グループの魅力をお見せしたいと考え、その中心になるものとしてアニメを制作した。大阪・関西万博に出展しているのも、120周年を記念したものである。海外含めて約4万人いるグループ社員とその御家族に目線を向け、色々なことをやりたいと考えている」

――120年の歴史の中で、節目になった出来事や取り組みは?

 「祖業は鋳鍛鋼事業であり、その後に機械、鋼材、銅、エンジニアリング、建設機械などに事業領域を広げていった。やはり大きいのは、現在の神戸線条工場に高炉を建設し、製鉄業の歩みを始めたこと。それに続いて加古川に大規模製鉄所をつくったことが転機になった。加古川製鉄所の高炉が完成したのが1970年であり、そこから数えると今年で55年。120年の歴史の後半の半分くらいで、大型製鉄所を構えた鉄鋼事業を展開して今に至るわけだが、逆に言えば、それまでの前半の半分くらいはそうしたもの(大型製鉄所)はなく、多様な事業を展開していたという事になる」

 「1980年代は、エンジニアリング事業で海外プラントを数多く受注した。その時代は、採用活動において海外志向の学生が多く集まってきた。しかし、1985年のプラザ合意後の円高影響で、そうしたビジネスの収益が目減りしてしまい、海外プラントビジネスは縮小した。ただ、そのビジネスが消えてなくなったわけではなく、その時代に買収した米国ミドレックス社の還元鉄製造プロセスが今に活きている」

――経営面からみて、120年の中では厳しい局面も多くありました。

 「振り返ると、厳しい時代が多かった。創業初期も、親会社である鈴木商店の倒産や第一次大戦後の不況など苦難の時代が続いたが、新たな事業分野の開拓などの挑戦を続けて苦難を乗り越えるとともに、多くの国産第一号製品を生み出した。その後、第二次世界大戦前の戦時需要や朝鮮戦争の特需などを背景に事業が拡大する時期もあったが、そこから先は縮む局面が続いた。私自身は1985年に入社し、現在の機械事業部門に配属となり90年以降は本社と機械事業部門を行ったり来たりしたが、その間、縮小均衡の経験しかない。振り返ると、存続の危機は何度もあった。総会屋事件や品質問題に代表されるコンプライアンス問題などもあり、多くの皆様にご迷惑をおかけした。そうした中でも、お客様やグループ社員の皆さんなどを含め、当社を愛してくださる方々が多く、そういう方々に支えられて今があると思っている」

――神戸製鋼所(KOBELCO)グループは、多様な事業を展開している形です。一般的にそうした企業では、コングロマリット・ディスカウントが発生しやすいと言われますが、どうですか?

 「コングロマリットとは、辞書で引くと『関係のないものの集まり』となっている。当社は、これには当てはまらないと考えている。では120年間続いている当社の企業体をどう表現すれば良いのだろうか―と考えると、兵庫県の西神にある研究所のあり様を見ると分かりやすい。そこには素材系と機械系、あるいはそれ以外も含めて、それぞれの分野の要素技術が集まっている。従って異部門間の『かけ算』がやりやすい。お客様は自動車、造船、建築・土木、エネルギーなど分野は多岐にわたるが、お客様に対して総合的にご提案できる。例えば自動車を考えると、開発から、製品を作って、ものが走って、それが終わって解体されて、リサイクルされるという開発から解体の流れ全てに渡って、当社グループが持っている要素技術や関連技術をまとめてご提供でき、ご相談に乗ることができる。そして、それがその次の新しいメニューに育っていく。それができるのが当社の強みであり、その繰り返しだと思う」

 「例えば、当社は自動車メーカー向けに特殊鋼線材や薄板を納入している。それが軽量化にシフトすれば今度は当社のアルミ板を提案する。加えて、そこから困り事の相談の中で、アルミの鍛造サスペンションの取引が生まれるなど、多面的なお付き合いをさせていただいて新しいものが生まれる。そういうサイクルを続けてきているのが当社のスタイルだ」

 「別の例を挙げると、電力事業がある。鉄鋼事業において、製鉄所内で自家発電を行っている。それを共同火力の形ではなく自社運営の自家発電で手掛けることで、発電のノウハウを蓄積してきた。それが現在の神戸発電所や真岡発電所といった電力事業につながっている。形態も、神戸発電所の発電方式は石炭火力だが、真岡では都市ガス火力とした。加えて立地を考えても、神戸発電は臨海なので石炭の運搬・在庫問題は発生しないが、真岡は内陸なので、海水を使えないから大きな送風機が必要となる。振動や騒音の問題が出てくるが、そこは当社の技術開発本部の解析・評価技術が効果を発揮する。そうした形で多分野のさまざまな技術を結集して、新しい事業やメニューが生まれてくる、そういうところが当社が長く続いてきた理由だろう」

――今後も、多分野に渡る技術を結集して、シナジーを発揮しながら事業展開を進めていくと。

 「お客様から『コベルコはこんなこと、あんなことをやっていましたよね。今度、紹介してほしい』などとお声がけいただくこともあるが、当社からも積極的にお客様に提案できるようにしていきたいと考えており、現在取り組んでいる『KOBELCO―X』の中のCX2(お客様対応変革)がそれに当たる。お客様の困り事に対してKOBELCOグループ全体で積極的に提案していきたい」

――鉄鋼事業は神戸製鋼所にとって特別な存在なのでしょうか?

 「鉄鋼事業は祖業の一つであり、平炉から始まって、神戸製鉄所、加古川製鉄所と生産設備を増強してきた歴史を持つ。当社の中で、大きな存在であることは間違いない。その事業としての数字を見ると足元は35%くらいの比率になっており、過去と比べてウエートは下がっているが、重要な存在であることに変わりはない。鉄はあらゆる製造業のベースとなりえるし、製鉄所には多種多様な技術が詰まっているという点からも大きな存在だ。その製鉄所から、例えば圧延機だとか連鋳機といった生産設備を自社の機械事業部門で造って、事業のベースにしていった歴史もある。電力事業も先ほど申し上げた通り、鉄鋼事業で蓄積した技術が基盤になっている」

――鉄鋼部門の製品メニューを見ると、総花的ではなく、強い分野・品種に経営資源を集中する戦略です。

 「昔は色々な品種・分野を幅広く手掛けていたが、時代とともに国内競合他社や他国の有力ミルと比べて競争力が劣る領域が出てきたことを受け、特殊鋼線材や冷延ハイテンなど当社が得意とする分野に絞って、活路を見いだしてきた。選択と集中を行う中で、汎用品の輸出を減らすなど受注構成の改善を進めてきたが、これは鉄鋼メーカーとして生き残る道を模索した結果ともいえる」

――鉄鋼事業の将来像の展望はどうですか? 世界全体で鉄鋼需要は増えても、日本の内需は減少が不可避です。

 「現在、当社の海外鉄鋼事業として、米国USスチールとの合弁事業であるプロテックや中国鞍山鋼鉄との合弁事業である鞍神などがあり、それらの下工程事業を加味すると、粗鋼生産は増えていないけれどもグローバル生産量は増やしてきた。今後も同様のやり方で、グローバルの生産量を維持・拡大していきたい。鉄鋼製品の地産地消はさらに進んでいくと見られることから、それに対応する形で事業の在り方を考えていく。新興国のマーケットは、日本のマーケットが歩んできた道に近い動きをすると想定される。当社が有意義な製品提供を出来るはずだと考えている」

 「日本の国内鋼材需要は、従来想定していたよりも早く減少しそうだ。輸出も厳しいことから、全国粗鋼が7千万トンとか6千万トンへと減っていく時期は前倒しとなる可能性もある。そうした環境下では、上工程の操業も工夫が必要となり、高炉設備の下方柔軟性が求められるようになる。例えば、高炉操業において休風には至らないまでも低操業ができる技術や高炉を電炉に置換するなどといったことが選択肢になってくるだろう」

――次に、アルミ・伸銅品など非鉄金属について。どのように業界の発展に寄与したいですか。

 「アルミは軽量化に資する素材ということで、アルミ缶のように他素材から転換することで市場が拡大してきた。これからは軽量性や熱伝導性などのアルミの特徴をもって新たな製品に初めから採用される動きが出てくればチャンスだ。飽くなき製品探求が必要になるが、例えば素形材のように新たな部材のニーズをしっかり捉えていくことが重要になる」

 「銅板条は自動車と半導体で異なるが合金設計の強みを生かしていくことで、優位性を確立していく。社会に欠くことのできない素材に付加価値をつけて提供し続けていきたい」

――海外事業を中心とした成長戦略はどう考えていきますか?

 「北米ではアルミサスペンション(KAAP社)の黒字化見通しが視野に入った。日系自動車大手だけでなく米国ビッグ3とも取引があり、中大型製品で高いシェアを持つので、安定生産ができれば収益がついてくる。今後はメカニカル鍛造の歩留まり改善を進めるとともに、自動車部品以外でのニーズを捕捉できないか探求したい」

 「北米のアルミ押出拠点(KPEX社)はダウンサイジングを決め黒字化を目指しているが、稼ぐ体質を作るにはまだ課題がある。もともと7000系合金で打って出たが、現地ではリサイクル性や加工性の観点から6000系合金のニーズが強い。6000系合金も製造できるが、競争が激しく価格競争に陥ってしまう懸念がある。市場の動きをよく見ながら、技術力が生きる形で進めていきたい」

――最後に、他社との事業統合や再編についての考えは。

 「先ほど、異なる事業部門間の『かけ算』によるシナジーが当社の強みであり、生きる道だという趣旨の話をしたが、他社との事業統合や再編なども当然、選択肢の一つになる。現状の収益性だけでなく、その事業がより強くなって、成長の可能性がありそうかという目線で考えていきたい」(聞き手・一柳朋紀編集局長)