――海外事業の目玉としてUSスチールを完全子会社化しましたが、どうしていきますか?
「アメリカの市場は、鋼材価格が世界で一番高い。アジアのホット市況と比べると、2倍くらいになっている。昔はこのような価格差ではなかった。ここ10数年に起きた構造変化だ。要するに、中国が安値を形成し始めて、アメリカはいち早く、中国の安値の悪影響を受けないように通商措置を講じたため、今のような価格差になった。従って、USスチールを含めてアメリカの鉄鋼メーカーがなぜ儲かっていないかというと、価格ではなくてコストの高さに原因がある。USスチールは儲かっていないが、なぜコストが高いかと言うと、昔は高炉が小さいものを中心に80基あった。米国では小さい製鉄所が山のようにあったが、次第に淘汰され、USスチールだけが生き残り、ナショナルスチールを買収するなどした。そしてピーク時に粗鋼生産能力が5千万トン以上あったのに、現在はアメリカ国内の生産が1千万トン強にとどまっている」
「USスチールは今、残っている設備が虫食いになっている。例えばモンバレー製鉄所の場合、3つの製造所で1つの製鉄所を構成している。製造所の1つはコークス工場だけがあり、そこで製造したコークスとガスを他の製造所へ運ぶ。もう1つの製造所は上工程だけであり、もう1つは下工程だけとなっている。つまり、一貫製鉄所と言いながら、真の意味で一貫でモノが出来ているのは半分くらいしかない。従って物流費のコストが高い。工場同士で、モノが行ったり来たりしている。そのほかのコスト高としては、高級品の製造コスト。設備が非常に古いのに自動車向けなどの高級品を造っているので、当社と比べて驚くほど歩留まりが低い。物流費にしろ、歩留まりにしろ、変動費のコストが高い。米国の鉄鋼メーカーは固定費が高いと思っている人が多いが、そうではなく変動費。輸入材があれだけ沢山入っているのに、それを取ろうとして価格を合わせに行くと、限界利益が出ない。量を取りにいく経済的な意味がないという形になっている」
「それをどう解決するか。どう変動費を下げるかと言うと、エンジニアの質が悪いわけではない。投資をすれば100%の確率で改善する。変動費を下げるために古い設備を新しくする。そして一貫生産比率を拡大するための投資もする。それによって輸入鋼材に対抗し、高すぎる輸入材比率を下げていくつもりだ」
――日本の準ホームマーケットとしてやってきたアセアン(東南アジア)は、どういう手を打ちますか?
「タイ以外のアセアンの鉄鋼マーケットは、もう既に中国化してしまっていると見られる。そのなかでタイをどう守っていくかが重要テーマになる。タイは今までは日本の第2ホームマーケットということで、ユーザーさんも日系企業が多かった。今は、鉄の輸入材も大きく増えており、加えて、鉄鋼需要産業界においても、中国が急速に存在感を増している。鉄鋼業もここで手を打たないと、ベトナムやインドネシアのように厳しい状況になってしまう」
「そこで当社は、Gスチール・GJスチールという2つの会社を買収した。厳しい収益状況だが歯を食いしばって、上工程から下工程まで一気通貫で守り通したい。タイ市場での当社のシェアは足元で3割程度となっているが、将来的にはマーケットの半分ぐらいは当社の現地生産でおさえるつもりだ」
――最後にうかがいたい。橋本会長が陣頭指揮してきた一連の「橋本改革」の次の一手は何ですか?
「企業風土の改革を進めたいと考え、着手したところだ。過去5~6年の取り組みによって、収益力の回復は出来たと思っている。これが第1ステップであり、収益力の回復は、トップダウンで成し遂げることが出来るもの。ただ今後、高水準の収益力が続くかどうかは分からない。収益力を長続きさせるには、成長に挑戦する企業風土にしていく必要がある。それが第2ステップだ」
――企業風土を改革するため、具体的に何に取り組みますか?
「当社は製鉄所が全国に分布しているという多ミル構造などが背景にあるが、歴史的に調整業務が多い。これを減らす必要がある。そして、仕事のやり方を常識化することが重要だ。常識化しないとDXも使いにくいし、社外からの中途採用も進まない。仕事を常識化することで、結果として外部人材活用も含めたダイバーシティが進む。私や今井(正)社長は、うんざりすると言われるくらい、企業風土改革の必要性を訴えていくのが役割だと思っている」(一柳 朋紀)


