――鉄鋼とアルミ板がありますが、まずは鉄鋼事業から。これまでの歩みを振り返りつつ、今の実力はどれほどなのかという自己分析をお聞きしたい。
「当社は1916年に鋼材事業をスタートし、1926年に第一線材工場の稼働を開始した。来年で鋼材ビジネスは110周年、線材の生産開始からちょうど100周年を迎える。1905年の創業以来、当社は色々な事業を営んできているが、売り上げ規模や人材を含めた投下経営資源という点では、鉄鋼が一番大きな事業となっている。長年にわたって、当社グループの中核を担ってきた事業であって、それは現在も変わっていない。また、当事業部門内にとどまらずに、本社部門や他の事業部門に人材を供給する『人材供給基地』という役割も果たしている」
――今の神戸製鋼の鉄鋼事業は、どういう所に特長や強みがあると考えていますか?
「当社は、幅広い分野を網羅する事業展開ではなく、マーケットを絞り、特長ある製品を強みに事業を展開している。例えば、自動車用ハイテン材に代表される高強度で加工性に優れた薄板、特殊鋼線材・棒鋼、高延性の厚板など。これらは汎用品では対応しきれない高度なニーズに応えるものであり、お客さまから評価されている」
――技術面から見て、神戸製鋼の鉄鋼事業の歩みは、どういう変遷をたどりましたか?
「鉄鋼技術の技術的な歩みを語るには線材の歴史に触れる必要がある。現在、神戸線条工場に第7線材圧延ミルと第8線材圧延ミルが稼働しているが、世界的に見ても、100年間の中で8基ものミルを段階的に更新してきた鉄鋼メーカーは多くはないと思う。更新時には、単なる設備の入れ替えではなく、それまでに蓄積された生産技術と設備技術も反映した最新鋭のミルを導入してきた。こうした技術の継承と進化が、当社の鉄鋼事業における技術力の源泉になっていると捉えている」
――次は未来の話しをお聞きしたい。鉄鋼事業の将来を考えると、どのように利益成長できますか?
「これまで掲げてきた、マーケットを絞って特長ある商品に注力することで収益を上げるという基本方針は、これからも変わらない。その上で、環境の変化に柔軟に対応していくということが求められる。特に重要なのは、海外市場における地産地消のニーズへの対応だ。関税や保護貿易的な動きなど、輸出ビジネスを取り巻く環境は、年々厳しさを増している。当社はもともと輸出比率が高いわけではないが、海外に拠点を張って現地生産することの重要性が増しており、今後これに対応する必要がある」
「国内生産は、内需への対応と近隣諸国への輸出が中心になるが、他社とは異なるメニューを通じて、お客さまの期待に応えていくことが重要だ。国内の粗鋼生産量が減少傾向にある中で、当社の事業がその動きに左右されることなく、特長ある製品によって現在の国内生産数量を維持していくことが重要だ」
――拡販を狙いたい「特長ある製品」は?
「自動車用のハイテン、特殊鋼の線材・棒鋼、造船・建築向けの厚板、高耐食性めっき鋼板のKOBEMAGなど。線材・棒鋼の中では従来の特殊鋼に加え、今後は電動化・EV化に対応する新しい成分系の軟磁性線材などの需要が増えてくるとみられ、これに対応した新製品の開発を進めていく」
――カーボンニュートラルに向けた取り組みは。同業他社は高炉から大型革新電気炉への切り替えを進めます。
「当社は高炉2基体制で粗鋼生産量も年間600万トン程度であるため、まずは現行体制で実行できること、例えば転炉へのスクラップ増配や高炉へのHBI装入など、お客さまのご要望に応じて数量をコントロールできる可逆的で即戦力的な手段でCNニーズに応えていく。一方で、将来的には電炉導入や高炉の革新化のような大きな決断も必要だと考えている。これらは不可逆的な対応であり、経営的な影響も大きいので、グリーンスチール市場の形成等を見極めた上で適切なタイミングで決断したい。大型電気炉を含め、次のプロセスへの移行時期については現在検討中だが、適切なタイミングを見極めているところだ」
――次にアルミ板事業について。歴史と強みの分析を伺いたい。
「1969年に真岡製造所が稼働を始めてから50年以上となるが、アルミ板事業は国内では競合大手と当社でしか対応できない製品も多く、お客さまが新たな取り組みを始める際にお声掛けをいただけていることを考えると、お客さまにとっても重要な立場にあると認識している」
――今後の事業強化策は。
「足元の業績は厳しい状況にある。自動車のアルミ化の進展が、中国・天津への設備投資を決めた当時の想定と現在とで大きく乖離しており、自動車パネル材の販売が伸び悩んでいることが主な要因だ。昨年度に中国でのアルミパネル事業を宝武アルミとの合弁事業として進めることを決めた。宝武が持つ中国系自動車メーカーへの営業力や中国国内でのクローズドループリサイクル実現により、早期黒字化を目指す。母材は宝武アルミから調達する体制へと切り替える方針で、現在はその準備を進めている」
――国内の課題は。
「収益力を改善する必要がある。中長期的な販売計画を見極め、その上で当社にとって最適な生産能力を判断する。これに合わせて要員配置や稼働設備を見直し固定費を下げつつ、投資した設備を最大限生かして拡販もしていく」
――商品別の戦略は。
「足元出荷が好調なディスク材は、当社が世界シェアの約6割を占めている。素材からサブストレートまでを一貫で手掛けているので、お客さまの開発要望をワンストップで対応できる点が強みだ。今後も薄肉化開発を進めることで、数量の維持拡大を図りたい。半導体製造装置用厚板は、足元の需要こそ停滞しているが、中長期的には拡大が見込まれている。品質面でお客さまから高い評価を得ている高精度板(アルジェイド・アルハイス)の拡販はもちろん、さらなる平坦度の向上など品質を強化する施策を進めていく」
「自動車パネル材については、自動車メーカーのアルミパネル採用の見通しを改めて精査しており、各案件に対しシェアを確保することを基本方針としている。缶材については、人口減少が進む国内市場においてシェアを維持するため、得意とする薄肉化対応などで特長を出す。またリサイクル原料を活用した新製品開発にも注力し、お客さまニーズに応えていきたい」(一柳朋紀・遊佐鉄平)