――20年度に発足した組織。これまでの5年間で注力してきたことは。
「当時の鉄鋼事業部門とアルミ・銅事業部門のうち、売上規模が約400億~500億円(銅板は約1千億円、鉄粉とアルミ鋳鍛が約100億円)と、当社の中では比較的小規模なユニットが集まった組織で、発足当時は多くのユニットが業績不良で、黒字だったのは銅板と銅管(現在は売却)だけだった。このような中で、縦割り組織からの脱却を目指し、初代部門長の宮下幸正氏が『お客さま視点を大事にし、お客さまから始まるものづくりを実現しよう』という方針を掲げ、事業部門の一体感を醸成した。例えばQCサークル活動の報告会や品質保証会議に営業も参加することで、お客さまに対して営業と工場が一体となって対応に当たるという文化を形成してきた」
「その後、事業部門長に就いた宮崎庄司氏は〝標準文化の育成〟に力を入れ、全員参加でのKOBELCO TQM(コベルコ総合的品質管理)を推進した。これにより6ユニットすべての社員の考え方がKOBELCO TQMに統一され、隣接の部署とのコミュニケーションにおける共通言語や考え方の違いによる障壁が減少し、ユニット間の連携を深める土壌が整った」
――組織の統合も進めてきた。
「工場ごとに独立していた設備部隊を事業部門内の技術総括部に組み込み、各工場の設備部隊の連携強化を図った。これにより操業に課題を抱えていた米国のアルミ押出・サスペンション拠点に対し、高砂製作所から応援を派遣するなど柔軟な運用が可能になった。また、BCPやサプライチェーン、人権問題など多様化するリスクに対応するため、各工場の資材・調達部門を統括する組織を事業部門内の企画管理部内に設置した。設備や資材・調達のほか安全、品質管理などでも横断的な活動が実施できている」
――これから目指していく姿は。
「マーケットを基軸に、ユニット間の連携を深めていくことに注力する。例えば、航空宇宙・防衛産業の成長が期待される中、当社ではチタンやアルミ鍛造品や、アルミ、マグネシウムの鋳造品で貢献することができる。アルミ鋳鍛とチタンの航空宇宙産業向けの営業部隊は合同会議を実施するなど、異なる金属を扱うユニットが協力して、共通のお客さまに提案を進めている。将来的には金属の種類も拡充し、〝航空宇宙・防衛向けの金属素材メーカー〟としてのプレゼンスを高めていきたい」
――各ユニットの現状と展望も伺いたい。まずは鋳鍛鋼から。
「鋳鍛鋼は独自の製鋼・鍛造技術で高品質な製品を製造し、大型船舶用クランクシャフトでは世界ナンバーワンのシェアを持つ。不況時に生産能力の縮小や、不採算品種からの撤退を決めた結果、今やチタンに次ぐ収益源となっている」
「クランクシャフトは足元、船舶用組立型クランクシャフトの需要が旺盛で、再生可能エネルギーのバックアップ発電用途や、データセンター用発電エンジン向けの一体型クランクシャフトも市場が拡大している。ただ、ここでやみくもな要員や生産設備の増強を行うことは収益悪化リスクを伴うため、自動化による対応を進めて需要に応えたい」
――アルミ鋳鍛は。
「航空宇宙・防衛分野への拡販に努めていく。大安製造所の最大油圧プレスは8千トンで、競合と比べると小さい印象だが、高砂製作所には鋳鍛鋼の設備で1万2千トンプレスがあり、これはチタンも鍛造している。さらに、当社も出資している日本エアロフォージ(Jフォージ)は5万トンプレスを保有しており、アルミの大型部材を加工できないわけではない。これまでは大安製造所以外の設備に目を向けることがなかったが、これからはユニットを越えた設備の活用も進めていきたい。鋳造品は標準化によるコスト削減を図ることに加えて業務を効率化するために砂型用3Dプリンターの導入も検討していきたい」
――チタンは。
「鍛造材は航空宇宙・防衛向けの需要が伸びており、Jフォージの受注も民間航空機向けを中心に増加傾向にある。生産能力のひっ迫が始まっており、これまでにない水準の生産に向けて、設備投資や要員増、現場改善による能力向上を検討し、受注に確実に応えていきたい。一方で圧延材は中国材などとの競争が激化している。ユニットとしては売り上げ数量の約7割を占める圧延材は、製品構成を見直し、収益性の高い製品の比率を高めるとともに、鍛造材についても出荷数量拡大に取り組み、両分野での成長を目指している」
「ロシアによるウクライナ侵攻以来、鍛造に使用するビレットの需給がひっ迫しており、調達リスクが上昇している。お客さまの認証が必要だが、内製化も選択肢の一つと考えている。情勢を見極めながら慎重に検討していく」
――アルミ押出・サスペンションは。
「アルミ押出は、米国拠点で月産能力をダウンサイズすることで黒字の道筋が見えてきている。さらに今後は自動車の電動化の流れの中で需要拡大が見込める6000系合金市場において当社の強みである大型・複雑形状を生かして受注拡大を目指す」
「サスペンションも課題の米国拠点の黒字化が見えたため、次の成長に向けたグローバル戦略を再構築している。我々が得意とする中・大型サスペンションは米国だけでなく日本でも成長が見込まれる。一方で中国市場は、日系自動車メーカーの販売台数が減速しているだけでなく、現地競合の追い上げが厳しくなっている。中国系自動車メーカーへの販売強化を進めているが、スピード感が日系自動車メーカーとは異なり大変ではある。ただ、中国市場での成功はグローバルでの競争力向上につながると捉えており、戦略を検討したい」
――銅板は。
「中長期的な半導体需要の拡大や自動車の電装化に対応するため、新リフローめっきの生産能力引上げを決めた。今回の投資により10%の増産が可能になるが、それ以上の増産には圧延も含めた上工程の投資が必要になる。これを自社単独でやるのか、国内外の他社と協業するかなど、検討を進めている」
――最後に鉄粉を。
「鉄粉ユニットは粉末冶金用で国内シェア45%を有するが、足元は厳しい状況が続いている。自動車の電動化に加え、自動車需要自体の低迷により、昨年度には25億円の減損を計上した。需要減を見越し生産性向上を進め、損益分岐点を下げてはいるが、市場環境の悪化により収益は厳しい状況にある」
「販路開拓のため、4月からタイ・バンコクに駐在員を1人配置した。既に東南アジア、インドなどで徐々に受注を増やしている。他にも、表面に絶縁被膜を形成した磁性鉄粉『マグメル』を、薄型で高出力なアキシャルギャップモーター向け等に拡販したり、用途開発を進める新規事業営業室を営業部内に新設したりして需要拡大を図っている。販売量を増やして収益改善を進めたい」(遊佐鉄平・山口大智)