神戸総合技術研究所(神戸市)
神戸総合技術研究所(神戸市)

 神戸製鋼所は既存事業の深化と新たな収益源を模索する〝両利きの経営〟を推進している。新たな飛躍とイノベーションの種をどう生み出すか。けん引役を担うのが、技術開発本部だ。

 「創業以来120年にわたり幅広い事業で培ってきた技術や知見の多様性こそ当社の強みだ」。技術開発本部の西野都(さとし)本部長(執行役員)は、新たな価値創出の鍵は「〝技術資産のかけ算〟にある」と強調する。

 技術融合の土台となるのは、事業部門の垣根を越えた〝21のコア技術〟だ。素材系や機械系、電力など各事業の製品・プロセス群から競争力の高い中核技術を選定・分類。「技術×技術」というコベルコらしさを武器に、既存事業の高度化や新規事業の創出に挑んでいる。

 既存事業の支援役として成果を挙げた好事例が、高炉の安定操業に有効なAI操炉の開発だ。この技術は脱炭素化に有効な還元鉄「HBI」を多量装入する独自手法の確立にも貢献している。長年取り組み続けてきた人工知能(AI)の研究成果を操業管理に応用。西野氏は「1980年代から人と技術を担保し磨き続けたAI技術が実を結んだ」と話す。

 コア技術のかけ算による新たな成長のシーズ(事業の種)創出にも余念がない。技術開発本部が開発方針を見直し、従来の「既存事業への貢献」に加え、「新規事業の創出」にも取り組む〝両利き型〟へと再定義したのは2016年。西野氏は「成果はすぐには出なかったが、人材育成や保有技術の可視化などに工夫を凝らしつつ土台を固めてきた。地道な試みが奏功しシーズが生まれてきたのが、まさに今のタイミングだ」と語る。

 あくまで検討段階だが、西野氏は「素材系事業で培った金属表面制御技術は水電解式水素発生装置の電極の高性能化に応用できる。低コストな水素製造の可能性を秘める」と一例を示す。他にも、溶接事業で培ったロボット制御技術を生かした、溶接ワイヤによる金属3Dプリンティング技術の開発も進めている。「現行中計(24~26年度)では、こうした事業の種をしっかり育て上げることに力を注ぎたい」。

 近年は複数の大学と組み、デジタルや半導体分野での産学連携拠点の設立にも乗り出した。新規事業創出などを目的に本社部門に新設された事業開発部、技術戦略企画部とも連携を強め、グループが目指す「未来に挑戦できる事業体」への進化を強力に支えていく。