



共英製鋼はきょう3日、ベトナム北部の同社子会社、ベトナム・イタリー・スチール(VIS)社の新圧延工場竣工式をハイフォン市内で開催する。VIS社にはフンイェン省に圧延工場、ハイフォン市に製鋼工場があるが、両工場が同一敷地内に立地していないため、効率的な操業に課題を抱えていた。ハイフォンの製鋼工場敷地内に圧延工場を建設し、製鋼・圧延一貫生産体制を構築することで、競合他社に対するコスト競争力を強化する。投資額は約8千万ドル(約120億円)で、新工場竣工によりVIS社の鋼材年産能力は年間30万トンから80万トンに拡大。これにより、鉄筋を中心としたベトナム国内の鋼材生産量は北部にあるKSVC、そして南部のVKSを合わせ、年200万トン体制になる。ベトナムへの進出から鋼材年産200万トン体制に至るまでの歩みや今後の展望について、高島秀一郎代表取締役会長と廣冨靖以社長に話を聞いた。(宇尾野 宏之)
――貴社のベトナム事業の経緯から。
高島会長「海外事業を手掛け始めたのが昭和30年代で、その背景には国内の異形棒鋼の生産・販売だけでは将来を描きづらいということがあった。当時、父・高島浩一は鉄筋事業、加工品事業、そして海外事業の3本柱でこれを乗り切ろうと考えていた。海外進出は台湾の合弁事業の民豊泰鋼業から始まり、その後1973年には米国オーバン・スチール(ニューヨーク州)を設立した。これは日本鉄鋼業における米国進出第1号だ。その後もフィリピンやインドネシアなどさまざまな地域で事業を展開し、海外進出のノウハウを積み重ねていった」
高島会長「ベトナムは以前からその将来性に注目していた。91年に大阪商工会議所のベトナム訪問団に常任委員だった浩一の代理として私が参加し、そこで当時のファン・ヴァン・カイ副首相に『共英製鋼は5千万ドルを投資して鉄鋼事業をする』と申し出た。戦争などから国が立ち上がる時、必ず鉄筋が必要になる。そこでまずは鉄筋工場を建設し、それから復興に必要となる亜鉛鉄板の工場も買収しようと考えていた。その3年後の94年にはVKSを設立し、鉄筋単圧工場からスタート。今は電炉製鋼の一貫工場となっている」
高島会長「こうした中、経済発展する北部にも何とか進出したいと考え、2011年に買収によって、鉄筋単圧ミルのKSVCを設立した。KSVCは製鋼工場建設に関するライセンスを保有しており、工場建設を常に検討していたが、その後の17~18年に製鋼一貫のVISを子会社化したことで、その計画は見送ることにした」
高島会長「VISによって北部でも電炉製鋼工場を有することになったが、当時はベトナム最大手の鉄鋼メーカーとなるホア・ファットが急成長している最中。同社は高炉から鉄筋を生産しているので、電炉鉄筋に比べ50ドル近く価格競争力がある。これと戦うにはどうすればいいのかということで、製鋼工場と圧延工場が離れているというVISの課題を解消するため、最新の圧延ミルを製鋼工場隣接地に建設することを決めた」
廣冨社長「今年はちょうどベトナム戦争終戦から50周年になる。戦後復興に貢献するという思いで会長や高島成光名誉会長がまいた種が、記念すべき年に大きく花開いた。南部に続き、北部でも電炉製鋼一貫工場を立ち上げる。今回の竣工はその思いが結実した象徴としてうれしく思う。これで浩一氏の夢が北部でもかなったのではないか」
廣冨社長「今ベトナム建設鋼材の内需はおよそ1100万トンで、その約7割が北部。以前は5割程度だったが、首都ハノイ周辺の開発が進んだ。当時は拡大する北部の需要を捕捉しようとKSVCを買収したが、買収後の4年間は赤字。『こんな状況で新しいミルをつくっていいのか』という意見もあり、製鋼工場建設には至らず、時間が過ぎていった。そうした中、投資許可の期限が迫る17年8月になって、ようやくKSVCの製鋼工場建設を決めたが、ちょうどその日に当時のVIS株主であるタイフン社からVISに関する操業指導、共同運営、さらに出資するかどうかという打診があった。その後、交渉を重ね、2回に分けて65%の株を取得。製鋼と圧延工場のあるVISを傘下に組み込んだことで、KSVCの製鋼工場建設は中止することになった」
廣冨社長「VISをグループ化してから、ホア・ファットとの競合だけでなく、ギソン・スチールなど他メーカーも誘導炉(IF)の新工場を建設するなど能力増強が盛んで、コロナ禍も重なったことで赤字に転落した。これを乗り越えるにはVISを製鋼圧延一貫工場とし、コスト競争力のあるミルに作り変える必要があると考えたが、VISにはまだ国営企業としての体質が残り、新ミルを建設しても採算がとれない恐れもある。そこで高島会長と議論した結果、その体質が改善できれば、投資をしようと決めた。それからは100人規模のリストラを実行し、さらに本社からの操業指導など支援も重ね、改善に注力した。その結果、今は当社グループの中で最も低コストで操業できる工場に生まれ変わっている」
廣冨社長「新圧延工場の竣工で、少なくともIFメーカーとはコスト面で競争ができるようになる。また、状況次第だが、ホア・ファットの高炉鉄筋とも競争できると考えている。今は鉄鉱石価格が安く、約50ドルの値差があるが、鉄鉱石価格が戻れば、互角ないしは我々のほうがコストでも有利になるのではないか」
――伊ダニエリ社製を新設するのは、貴社では初めてです。
廣冨社長「コスト競争力を高めるという観点から採用した。毎秒40メートル以上で圧延できるのが大きな特徴だ。新圧延工場竣工でビレットの輸送がなくなり、電炉からの直送圧延により加熱工程も省略できる。これらを合わせてトン当たり20~25ドル程度は生産コストを下げられる。また、VISはブランド力があり、地域の相場よりも10ドルほど高く売ることができる。これらによってIFメーカー、さらに高炉メーカーとも勝負になると期待している」