不適正ヤードを巡る構図
不適正ヤードを巡る構図
ヤード規制条例・一覧
ヤード規制条例・一覧
不適正ヤードを巡る構図 ヤード規制条例・一覧

 法令に反した不適正な保管・操業を行う「不適正ヤード業者」の問題をめぐり、ここ1年ほどでさまざまな動きが出てきた。昨年5月、日本鉄リサイクル工業会が特別委員会の「適正ヤード推進委員会」を発足。これと軌を一にし、鉄鋼メーカー各社や建設業団体から不適正ヤードに関する注意喚起文書が発出された。また、自治体によるヤード規制条例は市のレベルから県単位に拡大。増加した金属盗難の撲滅に向けて警察も動き出している。それぞれ違う目的の動きだが、不適正ヤードに対して大きく四つの方面から是正圧力が強まる構図となっている。

 近年、鉄スクラップ価格高騰を背景に新規参入のスクラップ業者が全国的に急増した。こうしたヤードでは防音壁や汚水処理装置など環境対策が不十分なまま操業するケースが多発。スクラップの山を高く積み上げたり、騒音・振動で近隣住民から苦情が出るケースも多い。油や汚水の流出やヤード火災は社会的問題になっている。

 【行政】住民生活の安全と環境を保全する目的で、千葉市は2021年11月、「再生資源物の屋外保管に関する条例」を施行した。ヤード設置に市長の許可を義務付ける「許可制」を全国で初めて導入した。

 これが契機となって関東地区では同様の課題を抱える複数の自治体がヤード規制条例を制定。今年に入り条例の施行が相次ぎ、市から県のレベルに規制が拡大した。

 千葉市では条例違反の事例をホームページで公表。昨年3月に1社、今年は4月と5月に各1社と合計3社に改善命令が出された。

 また、太陽光発電設備の銅線ケーブルや、側溝のグレーチングなどの盗難が急増していることを受け、茨城県警や千葉県警が条例改正案や条例の骨子で意見募集(パブリックコメント)を実施した。さらに警察庁の露木康浩長官が5月の定例会見で金属盗難対策に関するワーキンググループ(WG)設置を発表。金属盗難が外国人によって組織的に行われていると見て、犯罪防止と治安維持を目的に警察庁が全国的な対策強化を指示する姿勢を示した。

 【鉄・非鉄スクラップ業】鉄スクラップ業における公平な競争環境の実現を図るため、日本鉄リサイクル工業会は昨年5月、特別委員会の「適正ヤード推進委員会」を発足させた。

 法令を守らないヤードは、手間とコストをかけて法令順守するヤードに比べ「鉄スクラップの仕入れ価格をトン3千~4千円高くできる」とされる。

 適正ヤードは商いのスタート時点で不公正な競争を強いられるため、同委員会は公平な競争環境の実現を目指している。同工業会では中四国支部が独自に「適正ヤード推進委員会」を立ち上げたほか、九州支部でも組織化が検討されている。

 また、非鉄スクラップ業者の団体である非鉄金属リサイクル全国連合会も「適正ヤード推進部会」を立ち上げている。

 【鉄鋼メーカー】鉄スクラップの需要家である鉄鋼メーカー各社も、法令順守(コンプライアンス)を目的に不適正ヤードからの鉄スクラップ受け入れ拒否を打ち出している。

 昨年8月、東京製鉄が鉄スクラップ直納業者に「不適正ヤードにかかる注意喚起」と題する文書を送付。法令に反した不適正な保管・操業を行うヤード業者から出荷された鉄スクラップは受け入れない方針を改めて表明した。これを契機に他の電炉メーカーや高炉メーカーが続々と同様の文書を発出。現状で22社から注意喚起文書が出されている。

 【建設業】工事現場で鉄スクラップが発生する建設業界でも、コンプライアンスを目的に不適正ヤードに鉄スクラップを販売しないよう注意喚起が行われた。

 大手ゼネコンなどが加盟する日本建設業連合会(日建連)は今年4月、会員140社に対して不適正ヤードに関する注意喚起を発信した。日建連には昨年12月、日本鉄リサイクル工業会が不適正ヤードの現状報告とともに、建設現場から発生するスクラップが不適正ヤードに流れないよう申し入れていた。