


構造用鋼管、電線管など溶接鋼管メーカーで構成する「熔接鋼管協会」は今年、設立60周年を迎えた。鋼管は自動車・建設・電機・農業など多様な需要分野で使用され、日本経済の成長を支えてきた。2021年には吉村貴典氏(丸一鋼管社長兼COO)が第4代会長に就任。吉村会長にこれまでの経緯や現状、そして今後の展望などについて聞いた。(宇尾野宏之)
――まずは現況から。
「会員数は15社で、賛助会員が1社。会員社数はここ10年で1社減となっただけで、ほとんど変化はない。会員の中には大径管・シームレス管・コラムを生産するメーカーもあるが、当協会が対象とするのは、いわゆる『熔協品』『熔協サイズ』と呼ばれる中小径管。統計などでは丸管は直径114・3ミリ以下、中径角管では125ミリ角以下、小径角管は60ミリ角以下が対象になる」
――部会活動について。
「技術部会、労務部会、貿易部会のほか、電線管技術委員会など委員会もあり、それぞれ年2回程度活動している。技術部会はJIS改正案について会員企業に説明するとともに、意見をとりまとめ、日本鉄鋼連盟標準化センターに要望を申し入れしている。また、大気汚染の原因となるVOC(揮発性有機化合物)の排出量を調査・集計しており、さらにCO2排出量削減についても、会員各社の高効率設備導入やインバータ化の事例を報告している」
「労務部会では賃上げや労働条件の改善、雇用対策などに関する状況を情報交換している。さらに若手社員の早期退職への対応策として、カウンセラーの導入、若手との懇談会の実施などについても情報共有している。労務部会には安全対策委員会があり、各社の作業環境の改善など年間安全衛生計画を報告することで、他社の事例を自社に反映するなどしている。また、労災事故があれば、それを会員各社に報告しており、業界の安全対策向上に資するよう取り組んでいる」
――この60年の経緯について。
「東西の溶接鋼管メーカーが集まり、その団体が統合することで当協会が発足した。当時は日本が高度経済成長期。需要・業界ともに拡大し、昭和48年には生産量がピークの180万トンになった。いまは日本経済の状況を反映してシュリンクしており、23年度の生産量は92万トン。ピークから半減し、特に当協会が対象とする中小径管は主用途の一つである中小建築物件の低迷もあり、減少傾向が続いている」
――電線管は?
「全体の傾向と同じように昭和48年のピークには29万トンあったが、曲げることができる塩ビ管などに代替され、いまはその10分の1以下の2万3千トン程度にまで減っている。ただ、鋼管は磁気シールドの特性もあり、耐久性も高い。塩ビ管に対して信頼性に優れているというのが強みだ。そのため、原子力発電所向けなど、特に安全性が求められる案件で鋼製電線管が採用されている」
――輸出について。
「輸出が多かったのは、昭和50年代で、例えば当社では販売量の2~3割を輸出していた。主に米国向けだったが、その後は現地法人を設立して、現地生産へと切り替えていった。輸出から需要地生産という流れはいまも続いている」
――足元は物流の24年問題も課題です。
「まだ問題が顕在化している状況ではないが、高速道路の使用などでコスト増にはなっており、今後は遠距離には輸送できない事態が発生する可能性もある。また、いわゆるカンバン方式の『必要なときに必要な量を持っていく』というのも、サプライヤーにとってますます負担になってくるだろう」
「このほか、車上渡し契約が基本だが、トラック運転手が荷降ろし作業をしているケースもまだある。その負担は大きい。個社で対応していく課題になるが、顧客が荷降ろしする、または荷降ろしのコスト負担を理解していただく必要がある。ドライバーの働き方改革に取り組んでいかなければならない」
――輸入動向は?
「ここ10年は増えておらず、減っており、23年度の輸入量も10万トン程度だった。足場管などで利用されているのだろうが、市場を大きく圧迫しているわけではない。ただ、完成品での輸入動向は把握しておらず、我々の顧客の製品、つまり完成品では競合が発生している可能性があり、鋼管の内需減に拍車をかける恐れもある」
――ここ最近の業界の変化は?
「先にも話したが、海外進出する事例が増えている。内需がシュリンクする中、成長するには海外市場に出ていく必要がある。ここ数年は活発になっているし、こうした流れは今後も続くのではないか」
――安全衛生について。
「目立った増減は見られない。鋼管業界では挟まれ事故などが多いが、トラックの荷台で作業する必要もあり、そこから転落するという事故も報告されている。転落事故については、例えば当社では作業デッキを作って、事故を減らそうと努力している。また、運転手・作業員が高齢化しているという課題もある。今後は高齢者向けの安全対策についても考えていく必要がある。事故事例の情報を共有することに努め、各社の安全対策に寄与できるようにしたい」
――業界の展望をどう見ますか。
「少子高齢化で、これからは労働力の問題がよりクローズアップされると考えている。設備の省人化、海外人材の活用など対応するべき課題は多い。また、カーボンニュートラルについては工場や使用電力など自社で発生するスコープ1および2は集計しやすいものの、母材コイルおよび輸送などが対象となるスコープ3はどう計算するのか。技術部会を中心に業界におけるCO2排出量をどう考えるか検討したい」
「こうした解決すべき課題はあるが、溶接鋼管という製品は社会の安全・安心を支え、暮らしを豊かにすることができ、社会から必要とされる、なくてはならない素材の一つだ。当会の理念は『協調と融和』。会員各社の交流、また技術・労務・安全に関する情報共有などの活動を通じて、これからも業界の発展に貢献していきたい」