チタン製の人工股関節(京セラ提供)
チタン製の人工股関節(京セラ提供)

 けがや病気で骨が欠損したとき、手術で置き換える人工骨。その素材として使われる代表的な金属がチタンだ。

 チタンが人工骨に適する大きな理由は二つある。

 まずは骨や細胞になじみやすい点だ。体内に埋め込まれたチタンの表面には、骨の主成分と同じアパタイト(リン酸カルシウム)が生成する。他の金属に見られない「生体適合」と呼ばれる働きで、骨組織と直接強固に結合する。

 もう一つが優れた耐食性だ。塩水に対して特に強いため、一定の塩分を含む体液に触れても、さびることはまずない。さらに、軽量で十分な強度もあるため、長期にわたり安全な状態で体内に埋め込むことが可能だ。

 人工骨には他の金属材料が使われることもある。例えばステンレス(SUS316L)はチタン以上に需要が多い。折れた骨を接ぐプレートなど一定期間で取り外したり、交換したりする場合に使用。骨と密着しやすく長期に埋め込むことが前提のチタン製と使い分けられている。

 チタンは、金属材料として工業化された黎明期から医療用素材として着目されてきた。世界で初めて工業利用が実現したのは1946年。この6年前の40年の時点で既にチタンの生体適合性を示す動物実験の結果が報告されている。

 その後、65年にスウェーデンの科学者が人工歯根への臨床応用に成功。この成果をきっかけに医療分野でチタンの有用性が広く知られるようになり、股関節やひざ関節といった人工骨への普及が進んだ。

 日本チタン協会によると、人工骨が大半を占める国内医療市場向けの年間チタン展伸材出荷量は、全体の約2%にあたる137トン(2019年度)。これに加え、海外から輸入されるチタン製の医療器具もあり、合算すると国内市場規模は年間500トン程度と推計されている。

 高齢化で骨粗しょう症などの患者が増えると、人工骨が求められる機会も増える。人に寄り添うような材料特性を持つチタンは、これからの社会を支えるより身近な金属になるかもしれない。(おわり)