――大同特殊鋼は8月19日に創業110周年を迎えました。この機会に現在および中長期の将来像についてお聞きしたい。2030年のありたい姿で「事業ポートフォリオの変革による利益成長」を掲げていますが、ベースロード事業(特殊鋼鋼材・工具鋼鋼材)については市場成長が望めない中で収益改善を図る方針としています。
「特殊鋼メーカーとして、ベースロード事業の競争力の維持・強化を最優先とした上で、成長市場製品に力を入れていく。これが当社の変わらぬ姿勢だ。ただ特殊鋼鋼材需要の過半を占める自動車向けでは、中長期でICE車関連需要の減少が避けられなくなっている。かつては日系自動車メーカーのICE車が成長・拡大するなかで、競争力のある車を実現するために当社は利益を(マージン率ではなく)面積で捉えてきたが、その考え方は変えざるを得なくなっている」
「自動車電動化に伴い特殊鋼鋼材使用量が減少していく状況においても、われわれは安定した品質の製品を必要な時に必要なだけお届けするサプライチェーンを守らなければならないし、それが使命だと考えている。その実現のために『特殊鋼の価値』を認めていただく方向にかじを切っており、今後もお客さまのご理解のもとで、安定した利益が得られる事業にしていく。自動車メーカーとの研究開発ではICE車向けの開発プログラムは減っているが、CASE対応で鋼材、磁石など多様な案件があり、今後も共創関係を深化させていきたい」
――事業ポートフォリオの変革では、自由鍛造品や環境先進設備の事業規模拡大、半導体製造装置用ステンレス鋼のシェア拡大などを進めています。
「素材の技術革新がイノベーションを誘発する産業へ経営資源を導入し、成長市場製品の拡大による事業成長を目指そうとしている。当社の成長市場製品は、航空・宇宙、クリーンエネルギー、CASE(電動化)、半導体製造装置、医療、その他(船舶など)であり、いずれも政府の重点投資対象分野に含まれる。設備投資、研究開発にも力を入れて、当社グループのプレゼンスをもっと大きくして、技術力を伸ばすことにより、成長市場の需要を獲得していきたい」
――具体的な製品事例も知りたい。
「航空・宇宙向けでは、自由鍛造品のジェットエンジンシャフトで世界シェア約25%(100席以上の旅客機)を有し、現在は大型回転体用ニッケル基合金でアジア初のプライム認定獲得を目指している。クリーンエネルギーでは低CO2先進設備(電気炉、熱処理炉など)の受注拡大、SMR(小型モジュール炉)、核融合向けや耐水素用の材料開発を進めている。CASEでは重希土類フリー熱間加工磁石の増産投資や、リアクトル用高機能磁性金属粉末の開発・採用やリチウムイオン電池負極材の開発を進めている」
「半導体製造装置向け高清浄ステンレス鋼では新規海外顧客も開拓中だ。独自の高温ガス腐食試験装置を生かして新素材も開発している。半導体製造装置分野における高機能ステンレス鋼棒線の世界シェアは現行40%超から50%に高めようとしている。また当社のチタン合金棒線の国内シェアは推定80%超だが、市場におけるプレゼンスや独自の製造技術、航空規格レベルの検査保証体制、グローバルなサプライチェーンを生かすことにより、医療向けチタン素材の世界シェアを現行10%程度から将来は20%に高めたい。医療用では手術用ロボット向け熱間加工リング磁石も伸ばせる」
「その他(船舶・防衛・産業ロボット)では、世界シェア約80%の中大型船用バルブで当社開発材の採用が拡大しており、産業ロボットでは小型モーター用熱間加工リング磁石、近接・測距センサー用高出力光源LED素子の需要が拡大している」
――成長分野への戦略投資では24年度以降累計で660億円の意思決定を行い、高合金プロセス改革、真空再溶解炉・磁石製造能力・圧延棒鋼ラインの増強などを進めています。特に渋川工場では、航空機や掘削(オイル&ガス)向け高合金認定取得、自由鍛造品製造能力増強に向けて大型四面鍛造機の導入、VIM(真空誘導溶解炉)の増強、VAR(真空アーク再溶解炉)の2基増設、熱処理・加工能力増強など高合金プロセス改革で360億円を投じ、27年度にプロジェクトを完工する予定です。
「戦略投資の意思決定は次期中期計画(27~29年度)で次のステップに進もうと考えているが、渋川の自由鍛造品については、ユーザーからの引き合いが想定以上に強く、そこまで待たない方が良いのではないかと考えている。大きなプロジェクトを実行しながら計画立案するのは厳しいのだが、検討を進めていく」
――2月に日本高周波鋼業を買収して完全子会社化したのに続き、10月には持分法適用会社だった東北特殊鋼(7月から連結子会社)を完全子会社化する予定です。この2社をはじめとするグループ事業強化についても聞きたい。
「日本高周波鋼業との製造に係るシナジーでは、当社の渋川工場、知多工場、星崎工場、知多第2工場と日本高周波鋼業の富山製造所の間で生産アロケーション・生産レイアウトの最適化を進める計画で、早いものは今年度から実行に移し、必要な設備投資も行いながら次期中期において着実に効果を上げていく。ただこれは第一ステップであり、その先では第二ステップが必要になるだろう。例えば、渋川から工具鋼や汎用ステンレス鋼の鍛延品を富山に全面移管しても、渋川の自由鍛造品の増産余地は限られる。将来は、富山を自由鍛造品の製造拠点としても位置付けて、渋川と富山で造り分ける体制が必要になるかもしれない。そうした事業展開を通じて日本高周波鋼業に輝いてほしいという思いもある」
――東北特殊鋼とのシナジーはどう期待を。
「東北特殊鋼は技術オリエンテッドの会社であり、自動車エンジンバルブ用耐熱鋼だけでなく電磁ステンレス鋼や非鉛快削鋼、チョークコア、ナノ結晶箔体、磁歪クラッド材など多様な材料を開発・製造している。大同特殊鋼グループの総力を活用することでさらに新しいものを生み出し、伸びる会社だと考えている。東北特殊鋼は東北大学と縁が深いし、当社も東北大学と高機能軟磁性材料の研究推進を目的とする共創研究所を設けており、そこにも参画してもらう」
――日本高周波鋼業、東北特殊鋼を含めて、グループ体制を再編する計画は。
「将来の市場成長や製品構成などを踏まえて、グループ体制を再編することは重要な課題だと認識している。現在決まった案件はないが、中期・長期の両面で検討を進めていく」
――東北大学との共創研の話が出ましたが、研究開発はどう考えていますか。
「事業基盤を支えるのは技術力であり、研究開発は引き続き重視している。成長市場製品を伸ばそうとしている中で、研究開発費の3分の1は新しい素材に振り向けている。またクラウド型材料開発プラットフォーム『ICMD』を導入し、開発期間の短縮に有効活用している。合金開発にしても成分設計だけでなく製造プロセスにもしっかり使えている」
「大学との共創では、昨年4月に名古屋大学と未来創造ジョイントラボを立ち上げた。電気、宇宙、医学など今は手掛けていない領域で何かできないかと模索している。東北大学との共創研もそうだが、数十年先も企業として存続していくには将来に向けた種まきも必要であり、手を抜かずにやり続けていく」
――最後に人づくりについて聞きたい。
「成長市場製品を伸ばす上で、海外ビジネスをやり切るグローバル人材の育成に力を入れている。トレーニー制度の人数を増やし、1年ではなく半年でもいいというように期間もフレキシブルにした。従来は現地販社で仕事をする程度だったが、今年からナショナルスタッフが一対一で連れ歩き、現地のビジネスを肌感覚で学ぶスタイルに変更している」
「DXを支える人材も増やす必要がある。外部の力も借りつつ、いくつかのレベルで人材育成を進めており、今中期ではDX人材を240人育成する計画にしている」
「特殊な人材だけでなく、能力をしっかり発揮してもらうべくコミュニケーションの充実、エンゲージメント向上に取り組んでいる。技術を支える人材の育成という意味では大学との共創も良い機会になっている。社会人ドクターはまだ少ないが、モーター設計での博士号取得者もおり、今後も力を入れていく」(谷山恵三、後藤隆博)



