関東コイルセンター(CC)工業会が創立60周年の節目を迎えた。不拡大マーケットへの移行や世代交代など、業界が大きな転換期に立たされる中、第12代会長に就任した奥澤公明氏(奥澤産業社長)は、長年の悲願である「CC業界のステータス向上」を強く打ち出している。加工賃適正化への信念と、メーカー・商社といった「川上」との実務レベルでの対話、そして次代を見据えた独自の組織改革など、60周年を迎えた工業会の新たなビジョンを奥澤会長に聞いた。(伊藤 健)
――創立60周年という節目を迎えた。過去の歴史、特にこの10~20年のCC業界の歩みを振り返って。
「私が業界に入った1990年代初頭、一般的な薄板価格はトン当たり9万円程度だったが、2000年代前半の暗黒時代には4万円台前半まで暴落した。一時は熱延コイルが2万円台の価格帯まで下落した異常な時代だ。当時の先輩経営者が『こんな商売やっていられない』と嘆いていたのを鮮明に覚えている」
「2000年代後半は中国の経済成長による鉄鋼価格の上昇や、リーマン・ショックによる急落などを経た後、『このままでは鉄鋼業自体が存続できない』とメーカー主導の強烈な価格是正が起こり、ここ数年は我々流通もそれに乗る形で適正価格の確保へかじを切ってきた。藤澤鐵雄前会長らの尽力により、経営者同士の親睦と信頼関係が格段に深まり『相場を下げてでも自社稼働を優先することは無駄な競争であり、共倒れを招くだけ』との認識を各社が共有するようになったのがこの10年の大きな成果だ」
――激動の時代を経て、足元では価格転嫁に対する現場や需要家の意識にも変化が見られます。
「現在、現場の中核を担う入社4、5年目の中堅や若手社員は、ここ数年の『値上げ環境』を経験している。かつて我々の世代が抱えていた『値上げすると転注や失注で仕事がなくなる』というネガティブな風潮が薄れているように感じる。『価格を適正化することで自社の業績が回復し、給与も上がる』というポジティブな成功体験を彼らは持っており、業界にとって大きな前進だろう」
「同時に、需要家(ユーザー)側のマインドも過去から変わった。以前なら値上げを打診すれば抵抗感があったが、今は大手ユーザーを中心にインフレや副資材価格の高騰を理解しており、『どういう時間軸で引き上げるのか教えてほしい』と具体的な対応を求めてくるケースが増えた。最終製品をいかに安く作るかというデフレ型の競争時代は終わり、適正なコストを最終消費者に転嫁していくという風潮が世の中全体に広がっていると感じる」
――就任時にも掲げられた「CCのステータス向上」実現のため、川上(メーカー・商社)とはどう向き合って連携していきますか。
「CC業界が単なる『下請け』や『コストセンター』という見られ方から完全に脱却し、『ステータスを上げる』ことこそが私の最大の使命だと考えている。そのためには、川上への直接的なアプローチが不可欠だ」
「これまでは経営者同士の挨拶程度の交流にとどまりがちだったが、今後はメーカーの技術・サービス部門の担当者や、商社の室長・課長クラスといった『実務レベル』の方々と、我々の実務者が直接対話して情報交換し、懇談できる場を設けたいと考えている」
「なぜこれほど加工賃が必要なのか、我々がどのような機能と責任を担っているのかを、実務レベルで深く理解してもらう。CC業が存続していくためにはレベラーやスリッター、シャーリングといった機械設備の更新に多額の費用を要する。更新できるだけの『適正な加工賃』と再投資可能な利益を確保しなければ、将来的に川上(メーカー)も川下(ユーザー)も困ることになる。こうした危機感を共有し、ヒモ付き商売においても、CCの適正なコストを考慮してほしい。我々が『必要不可欠なパートナー』であると認知させることができれば、単なるコストカットの対象にはならないだろう。こうした地道な活動が、結果的にステータスの向上と、再投資可能な利益の確保につながると信じている」
――関東という枠を超えて、関西や東海など他地区の工業会とも連携するほか、関東CC工業会の活動においても新たな取り組みを進めています。
「関西や東海といった他地区の工業会との交流をさらに深めたいと考えている。商圏が重ならないからこそ、他地区の工場を互いに見学するなど、もっとフランクな交流があっても良いと考えている。また関東が主催したメーカーや商社を招いたセミナーなども、オンラインを活用すれば他地区も参加する合同セミナーとして容易に開催できるだろう。お互いに直接的な競合にならない遠方の同業者だからこそ、腹を割って有益な情報交換ができると考えている」
「また関東では新たな取り組みとして、製造、管理、営業の各部門の『実務者懇談会』を始めている。機械の更新や熱中症対策、人材採用から法令対応などCC業が抱える悩みは共通している。実務者レベルで横のつながりを強化し、成功事例や課題を共有することでもCC業界全体のステータス向上につながると確信している」
――最後に、次の10年、そして未来を見据えた関東CC工業会の新たな組織運営などについて。
「これまでの関東CC工業会の会議は、全国CC工業組合の行事日程に合わせて開催されることが多く、関東独自の色を出しにくい面があった。新体制になって新しく入ってくれた若手役員たちには『実務者懇談会プロジェクト』など事業ごとに責任者を任せ、主体的に動いてもらう組織運営を進めていきたい。多忙な経営者ばかりだからこそ、細かい打ち合わせはグループごとのオンラインミーティングなどで進め、役員会は『意思決定の場』としてスピーディーに機能させたい。独自の『関東色』を打ち出し、『関東CC工業会に加盟しているからこそ得られるメリット』を最大化していく。会員企業で働く人全員が『CC業界にいて良かった』と思える魅力的な業界を、次の世代へと引き継いでいきたい」



