鉄鋼業をはじめとする産業界で〝信頼の証し〟として広く浸透している国際標準化機構(ISO)規格。日本検査キューエイ(JICQA、本社・東京都中央区)の児島明彦社長は「ISOは変化に強い組織づくりの武器になる。将来の見通しが不透明で変化が激しい時代だからこそ改めて評価し、企業経営にこの規格・認証を生かすべきだ」と訴える。ISO認証の多面的な有効性と最新動向を聞いた。(石川 勇吉)
――ISO認証を取得すると経営にどう役立つのでしょうか。まずは改めてその役割を教えて下さい。
「ISO認証は、組織のマネジメントシステム(運営システム)を対象とした業務の仕組みに関わる認証です。日本では1993年の日本適合性認定協会(JAB)設立による本格的導入開始から30年以上がたち、信頼の証し、品質の維持・改善の仕組みとして広く普及・定着しています。私どものような第三者認証機関は、お客さまのマネジメントシステムのPDCA(計画・実行・評価・改善)の仕組みが、品質、環境、労働安全衛生、情報セキュリティー、食品安全などの面で適切に運用されているかを、審査というISOの定期メンテナンスを通じて確認します。審査では、お客さまが見逃している課題に対して気付きを提供し、継続的に改善を進めて成果へ結び付けようとするお客さまの取り組みをお手伝いします」
――先行きの読みづらい今の時代にこそISOを活用すべきだと主張しています。
「鉄鋼業をはじめとするものづくり産業は、事業環境の先行きを見通すことが難しい局面が続いています。とりわけ鉄鋼業では脱炭素化で世界をリードする懸命な努力が続いています。企業成長と環境負荷低減を両立することが求められる一方、人口減少も相まった国内市場の縮小が企業活動の重しになっています。不確実性が高まり、経営リスクへの備えがますます重要になる中、変化に対応できる業務の質の向上が一段と必要になっています。スピード感もますます求められています。加えて、生産性向上や新規ビジネスといった機会への対応も欠かせません。ISOはそれらを可能にする強力な武器です。次々と降りかかるリスクに対し、改善のサイクルを回し続けることができるという利点を考えれば、企業を支えるためにアップデートし続ける『経営のOS(基本ソフト)』と言っても過言ではないでしょう」
「今日的な課題にも、ISOはもちろん有効です。ISO認証は標準化の仕組みであり、業務の属人化排除や品質のばらつき低減などに貢献できるからです。特に近年は労働力不足を背景に、企業で外国人労働者の採用を増やす傾向が顕著です。雇用の流動性も高まっています。こうした状況下でも、誰もが安全に働ける環境をつくる。そして人手不足を乗り切る。ISO認証はそのための強力なツールになると考えています。企業が直面する課題が増えるのに伴い、ISOが果たす役割が多様化しているとも言えるかもしれません」
――サプライチェーン(供給網)の変化に対するISOの有効性についてはどうお考えですか。
「地政学リスクや通商政策の変化に伴い、調達先を急きょ変更せざるを得ないような局面を想定すると分かりやすいと思います。ISO認証を導入し業務が標準化されている企業であれば、新たな調達先に対しても一貫した評価基準を適用することができ、品質のばらつきを抑えることができます。また、相手企業がISOを取得していれば、信頼できるパートナーであるとすぐに認知することができます。結果として商談を円滑に進めることにつながるでしょう」
――近年は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の動きを背景に「ISO/IEC27001(情報セキュリティー)認証」の取得が増えています。
「情報漏えいを引き起こしかねないリスクを可視化できる『組織を守る最強のフレームワーク』として機能するという利点が高い評価を受けています。人的・組織的な体制やシステムなどの観点から管理不備をあぶり出し、社員教育を円滑に進め、初歩的なミスをなくし、ルールの徹底を促す効果を期待できます。企業がDXを推進するには、同時にセキュリティー面の対応を強化することが欠かせません。有用性が評価されていますので、今後は取得数がさらに伸びていくと期待しています」
――経済安全保障の観点を踏まえ、政府は日本の認証機関の機能強化を後押しする方針を打ち出しました。
「昨年6月に経済産業省が公表した『新たな基準認証政策の展開―日本型標準加速化モデル』の中に、認証機関の機能強化の必要性が明示されました。日本の企業が海外認証機関に依存してしまうと、秘匿性の高いサプライチェーン関連の情報や設計データなど、いわゆる機微情報が国外に流出しかねないという懸念が強まっていることが背景にあります。産業界全体で標準化の取り組みを底上げするためにも、中核的な促進役として当社を含む日本の認証機関への期待が高まっています。当社は1992年10月に国内初のISO認証機関として設立され、以来30年余りにわたって認証実績を積み上げてきました。優れた審査員による良質な審査を提供してきた自負もあり、この要請に応えていかなければならないと考えています」
――JICQAは各種規格の審査活動を通じて鉄鋼業をはじめとする産業界の競争力を支えてきました。この先も発展を続けていくためには何が必要でしょうか。
「信用と信頼を基軸に据えた質の高いサービスを追求し、お客さまに役立つ価値を提供し続けていくことが何より重要だと考えています。当社は日本鉄鋼連盟をはじめ、鉄鋼業界から全面的に支援を受けて、JAB設立に先んじて発足した認証機関です。『産業界が生んだ、産業界のための認証機関』として日本の産業界の発展に貢献するという使命を果たすため、鉄鋼や非鉄、重工、自動車、建設、電機、化学、情報、金融、食品、監査法人、防衛省といった多様な産業分野に精通した審査員を社員として雇用している点は、当社の大きな特徴の一つです。長年日本の産業界を支えてきた、70歳代のベテラン審査員が豊富な経験と知見を社会に還元する一方で、審査員同士による世代を超えた技能伝承も活発に行われています」
「加えて当社はKPMG審査登録機構をはじめとした四つの認証機関との事業統合を果たしています。これらの合従連衡を通して、元来の専門領域である鉄鋼などの製造業に加えてサービス業などにも審査の領域が広がり、顧客層の拡大によって経営基盤も強化されました。現在は自動車業界の品質マネジメント規格『IATF16949』や航空・宇宙および防衛分野の品質マネジメント規格『AS―QMS』など、一段と高度な審査能力が求められる規格についても審査を提供しています。さらにはISO認証にとどまらず、JIS製品認証や温室効果ガス排出量検証まで事業領域を広げてきました。今後も産業界を元気にし、日本経済を強くしていく。その思いを強く持ち、鉄鋼業界をはじめとする多くのお客さまへ経営に役立つサービスを届け、総合認証機関としてお客さまにとってなくてはならない存在となるよう力を尽くしてまいります」




