最盛期には世界2位のアルミ生産量を誇った日本のアルミ産業は、1970年代に発生した2度のオイルショックによって一部を除き製錬事業から撤退を余儀なくされた。製錬撤退後は圧延業に軸足が移ったが、今なおアルミが存在感を失うことなく選ばれる金属であるのは、我が国の技術力によるところが大きい。日本が世界に誇るアルミ素材や製品、加工技術、リサイクルシステムを紹介する。
リチウムイオン電池箔
スマートフォンやパソコンに始まり、自動車や電力系統用蓄電池など生活インフラになくてはならないリチウムイオン電池(LIB)。LIBの正極材やパウチタイプの外装材にはアルミ箔が利用されている。LIB箔では現在、中国・韓国勢が勢いを強めているが、日本製品も今なお優位性を保っている。
2000年代、正極箔は日本勢が高いシェアを占めていたが、中韓電池メーカーの躍進に伴い新規参入が増え、シェア争いでは日本勢は後退。中国のEV市場拡大で伸びるCATLやBYDに納入する中国勢、グローバル化を進めるLGやSK、サムスンをフォローする韓国勢が正極箔の生産量を大きく増やしている。
一方でアルミ箔とフィルムを貼り合わせて造る外装材(バッテリーパウチ)では、電解液を漏らさないための気密性、外部からの水混入を防ぐための水蒸気バリア性、要求形状に加工できる高い成形性などを高レベルで満たした大日本印刷(DNP)が世界トップシェアを持つ。
DNPは25年2月にレゾナック・パッケージング(現DNP高機能マテリアル彦根)をグループ化。製造ノウハウの拡充だけでなく、従来の車載やIT分野に加えて蓄電池向けの強化も実現した。現在は欧州や米国での事業拡大も進めており、パウチタイプを採用するLIB市場での存在感は一段と高まる見通しだ。
磁気ディスク材
AI市場の拡大を受けて、世界で建設が相次ぐデータセンター。世界が注目する市場を日本のアルミ材が支えている。
データセンターに大量に搭載されるハードディスクドライブ(HDD)に内蔵されている磁気ディスクの材料にはガラスやアルミが使用されている。このアルミを使うアルミディスクの母材は世界でもUACJと神戸製鋼所の2社のみが製造しているため、日本材が世界シェア100%を占めている。
アルミディスク材は高精度、高品質板を円盤状に打ち抜き、熱処理などを施して製造されるが、この部分の品質保証が困難になる。HDD内の磁気ヘッドとディスクの隙間は十数ナノメートル以下のため外径、内径のみならず、極めて高い平坦度を実現できる圧延技術などが競争力の肝。積み上げた製造ノウハウと高い品質を武器に今後もハードディスク市場で高い存在感を示していくことになるだろう。
再生原料活用の缶蓋「エコエンド」
UACJと東洋製罐グループホールディングスが共同開発した低炭素飲料用アルミ缶蓋「EcoEnd」(エコエンド)は、従来困難だった缶蓋へのリサイクル原料の多用を実現した画期的な技術だ。
缶材は3000系のボディ(缶胴)材と5000系のエンド(缶蓋)材に分かれており、ボディ材には使用済みアルミ缶(UBC)由来のリサイクル原料が多用されている。一方で缶蓋は加工性や強度といった品質を確保するために新地金を活用するのが一般的だった。両者は缶蓋の原料を3000系合金としてリサイクルが可能な新合金に置き換えることで、新地金配合比率を約66%から約25%まで低減。さらに新合金でも強度と開けやすさのバランスを確保した蓋成形技術を用いることで実現した。
缶蓋へのリサイクル原料適用を巡っては、欧州アルミニウム協会が欧州圧延大手4社(ノベリス、コンステリウム、スペイラ、エルバル)と共同で24年から共同開発を進めているが、いまだ実現には至っていない。日本発の唯一無二の技術となっている。
アルミリサイクル
アルミリサイクルの代名詞といえばアルミ缶だ。24年度のアルミ缶リサイクル率は99・8%で過去最高を記録。ドイツなど欧州の一部の国で99%レベルを達成しているが、デポジット制(預かり金)を導入している点が日本とは異なる。日本でも町内会やボランティア団体、小中学校による集団回収がリサイクル率向上に一役買っているが、1970年代に構築した瓶や缶といった包装容器の分別回収システムによるところが大きい。分別回収はこれからのリサイクルのテーマ「水平リサイクル」の肝になるため、重要だ。
水平リサイクルでもアルミ缶は好成績を示しており、使用済みアルミ缶(UBC)をアルミ缶に再生するCantoCan率は24年度に過去最高の75・7%を記録した。適切に整備されたアルミ缶の回収システムとアルミ缶に戻そうという業界の強い意志によって実現できたものだが、この水平リサイクルはアルミ缶以外にも広がりを見せている。
20年代に入ってから水平リサイクルを進める動きが活発化している。20年にはJR東海や三協立山などが新幹線車両の水平リサイクルを実現し、そのほかにも地下鉄車両やサッシ、商業用廃トラック架装、エアコン熱交フィン、医薬包装用PTP箔などで適用に向けた動きが加速している。
いずれもアルミ圧延メーカーだけでなく、需要家や商社などと連携した取り組みになる。アルミメーカー単体では回収や実製品への品質担保などの面で手詰まりとなる。アルミリサイクルの適用範囲拡大と内容の充実化に向けて、業界を超えた連携がこれからも増えていくことになりそうだ。





