――会長在任時に取り組んだことは。
「会長就任に当たっては鉄スクラップ業の社会的な位置付けや役割を明確化したいという思いから『環境に貢献する工業会』をスローガンに掲げた。鉄スクラップ業は3K(きつい・きたない・くらい)と言われた時代がある。業界の課題が新3K(過積載・過当競争・環境)と表現されたこともあり『環境に貢献する工業会』は新々3Kと呼ばれた。環境配慮型社会となった時代背景もあるが、鉄の資源循環を担う我々の事業について社会の中での位置付けを明確化し、自らの業に誇りを持てるようにすることが大事だと考えた」
「工業会の運営に関しては当時60数人いた理事の人数を内部理事6人、外部理事6人の合計12人へ大きく削減した。行政からの通達もあり社団法人運営指針などを参考に実施したが、その目的は工業会をしっかり機能する組織に合理化・効率化することにあった」
「機能する工業会という観点では、コンピューター導入やホームページ開設なども行った。工業会と会員の間で情報がきちんと伝わるよう、いわば血の巡りを良くした」
「ポスト・カルテル団体だった『回収鉄源利用促進協会』は、私が会長だった1999年に解散した。同協会の会長は日本鉄リサイクル工業会の会長が兼務するのだが、同協会は設備投資を支援する債務保証機関。すでに鉄スクラップ業界は設備過剰の状況にあり、協会の役割は終わっていた」
――現在の工業会の活動をどう見ている。
「工業会活動から離れて久しい私が現在の工業会を評する立場にはない。ただ、見聞きする範囲での工業会活動に関して言えば、非常にしっかり運営されていると感じる。行政からの鉄リサイクルに関する問い合わせに工業会が窓口機能を果たすなど、頑張っている」
「工業会では会員の世代交代が進んでいる。今や経営者としては3代目や4代目。優秀な人材が家業を引き継いで入ってくる業界になっている。仕事をつくるのは人間。優秀な人材が入れば組織が変わり、新たな発想で物事が進む。工業会の中で、そうした動きは点から面に移行しているように思う」
――現在の鉄スクラップ業を取り巻く環境について。
「ルールの埒外で動く不適正ヤード業者が増えているのは大きな問題だ。ルールを順守しない分だけコスト競争力は向上する。一方、工業会の会員は労働時間やトラックの積載量などを順守しているためコスト競争力は上がりにくい。要するに同じ土俵で戦っていないことに問題がある」
「そもそも2000年6月施行の『循環型社会形成推進基本法』を契機に鉄スクラップ業と産業廃棄物処理業の垣根はなくなっている。有価の鉄スクラップだけを扱う建前によってルールを守らない業者が野放しになっているなら完全に法律の盲点だ。リサイクル業も規制対象とするルールを徹底し、早急に対応しないと手遅れになる。『悪貨が良貨を駆逐する』の典型になりかねない」
――次世代へメッセージを。
「高度循環型社会の構築が求められる中、鉄スクラップ業は鉄だけでなく、全ての素材を再資源化する『総合リサイクル』へと向かう流れになっている。工業会に関しても、非鉄や廃プラスチックなど幅広い再生資源の団体と連合組織をつくり、その中核を当工業会が担うべきだと思う。再生資源の中で鉄は量的には圧倒的に多い。しかし、会員各社の事業は鉄だけではなくなっている。少なくとも団体名から『鉄』を外すべきではないか。連合組織の発足に向けては段階を追って進める必要がある。ただ、話を切り出すべき時期には来ているだろう」