リズミカルに針金ハンガーを製造
リズミカルに針金ハンガーを製造
カラーバリエーションはさまざま
カラーバリエーションはさまざま
リズミカルに針金ハンガーを製造 カラーバリエーションはさまざま

 「ハンガー」と聞いて黒やピンク・水色に被覆された針金ハンガーを思い浮かべる人は多いのではないだろうか。かつてクリーニング屋で多く使用されていたそれは、今ではほとんどがプラスチックハンガーに姿を変えている。また、針金ハンガー自体も昭和後期をピークに安価な中国製が流入。その後、木製やアルミ製といった他素材が台頭するなど、ハンガー業界における針金ハンガーの国産マーケットは縮小の一途をたどっている。

 日本に現存する唯一の現役針金ハンガー製造機があるのは、被覆線メーカーのトワロン(本社・大阪府堺市、社長・藤本和隆氏)本社工場。同機がやってきたのは昭和57年のこと。クリンプ金網からなる金物店向けネズミ捕り機の売り上げが低迷していた当時、同社にとって新たな活路として製造を始めたのが針金ハンガーであった。

 カラフルな被覆鉄線をコイルから引き込んでカット。ハンガーの肩部分を歯車が折り曲げ、上部をつまむようにねじり、ハンガーの形を成形する。一秒間に約1本の製造が可能で、レトロなマシンが織りなす無駄のない動きは40年間変わっていない。ピーク時には5台体制で毎日フル稼働し、小規模店舗のホームクリーニング屋向けに月200トン前後のハンガーを出荷していたという。

 しかし平成に入り、クリーニング屋はチェーン化し、コインランドリーが増加。家庭用洗濯機の発展、さらには洋服のファストファッション化により、服を「クリーニングして大切に着る」より「ダメになったら買い替える」時代に突入する。これにより昭和後期には6500億円あったクリーニング市場は半分以下に減少。同時に針金ハンガーの需要は落ち込み、現在日本で針金ハンガーの製造を行うのはトワロン一社となった。

 藤本社長は「正直、収益性が高いわけではない。しかし欲しいと言ってくれる人がいる限り、機械が動く限りは作り続ける。当社が被覆鉄線をメインに扱うようになったそのきっかけとして、シンボルとして大切にしたい」と話す。

 針金ハンガーの価格は安価で、プラスチックハンガーよりリーズナブルで経済的、かつ自由に曲げられるため、さまざまな衣類や小物を干すことができる。「針金ハンガーだからこその良さというのはある。それに、うちのハンガーは丈夫ですよ。もう30年以上作業着掛けに使っている社員がいるが、形も変わらず、被覆はちっとも剥げていない」(同)とほほ笑む。

 工場の片隅でカラフルなハンガーをリズミカルに作り続けるそのマシンは、トワロンと街のホームクリーニング屋を、そして街の人々の暮らしをつないだ、昭和の古き良き記憶を思い出させてくれる。(山浦 なつき)